抗癌剤による脳のダメージ

抗癌剤による脳のダメージ>


抗癌剤は副作用が強く、癌化学療法を受けられた方は様々な副作用に悩んでおられます。
その現実を見ると、薬学関係者の1人として、心からお察し申し上げます。

さて、今回新たに、抗癌剤としてよく使用されている薬剤が、脳のダメージを起こす可能性が報告されていましたので、お知らせ致します。

これは、ロチェスター大学のMark Noble博士らが、生物学誌Journal of Biologyに報告したものです。

問題の薬剤は、乳癌、卵巣癌、大腸癌、胃癌、膵臓癌、膀胱癌などの治療によく使用されている5フロロウラシル(5-FU)およびその誘導体です。

今までもこの5−FUは、様々な副作用を起こすことが報告されていました。
例えば、食欲不振、悪心、嘔吐、腹痛、下痢、口内炎、腹部膨満感、下血、口角炎、便秘、胸やけ、味覚異常、口渇などの消化器症状。垂体外路症状、顔
面麻痺、言語障害、運動失調、眼振、せん妄(妄想)、意識障害見当識障害、記憶力低下、自発性低下、尿失禁が現れ、まれに白質脳症に至るなど、様々な副作用を起こすこと問題となっていました。

今回の報告では、それら以外に、記憶障害、集中力の欠如や極端な場合は視覚障害や痴呆なども起こる可能性が示唆されています。

今まではこのような症状は、抗がん治療の際の疲労、うつ症状、不安症の一部と考えられていたのですが、そのような症状が化学療法の後しばらく経ってから起こることに、筆者らは気づきました。

そこで、マウスを実験材料として5-FUを投与したところ、5ヶ月経って後に、脳のオリゴ樹状細胞が消失することわかりました。

このオリゴ樹状細胞は、中枢神経系や神経繊維を保護するミエリンの産生に重要な役割を持つもので、ミエリンが常時再生されない場合は、神経細胞間の伝達が阻害されることが分かっています。

これらの結果から、5-FUの化学療法を受けると、中枢神経系の変性が起こる可能性が示唆されています。

但し、今回の研究は動物を用いた実験ですので、そのまま人間に当てはめる事は出来ません。

また、5-FUは抗がん剤の中でもその効果に定評のある薬物ですので、その有用性と副作用を十分に勘案して、使用するか否かを決める必要があります。

癌が治っても、副作用で苦しむのは論外ですので、今後更なる研究を期待します。


□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■

 今日の話題は如何でしたか?

 ・既刊号は、ホームページ「http://www.drhase.info/」をご覧下さい。

 ・メールマガジンをお届けしています。ご希望の方は、上記ホームページより登録なさってください。

 ・また、情報交換の場として、「http://d.hatena.ne.jp/Drhase/」のコメントコーナーもご覧下さい。