老化に伴い、精子の質が悪くなり、遺伝病の発症率も増加する。

●老化に伴い、精子の質が悪くなり、遺伝病の発症率も増加する。


 母親が高齢出産だと、その子供に染色体異常が生じやすくなり、例えばダウ
ン症候群などの遺伝病の子供の割合が多くなることが知られています。
 そのため、なるべく若いうちに出産される方が好ましいとされていますが、
父親が高齢化している場合には、その子供に何らかの疾病の割合が多くなるか
などの研究は余りありませんでした。

 ところが今回、高齢女性の場合と同様に、父親の年齢が高くなると精子に担
われた遺伝形質に変異が生じやすくなり、子供が統合失調症や小人症のような
疾病にかかるリスクが高くなる事が報告されました。

 これは、米国カルフォルニア州にあるLawrence Livermore国立研究所のAndrew
J. Wyrobek博士らが、全米科学アカデミー紀要誌(Proceedings of the National
Academy of Sciences, June 5-9, 2006)に報告されたもので、高齢男性の精
子の遺伝的な欠損症に関する画期的な研究として、波紋を呼び起こしています。

 以前から、父親が高齢の時に生まれた子供は、統合失調症(schizophrenia)
や小人症の原因である軟骨形成不全症(achondroplasia)になりやすいといわ
れていましたが、科学的な研究は無かったそうです。

 そこで研究では、カルフォルニア州およびボルチモアの2カ所に住む22歳
から80歳までの97名の男性を対象にして、精子の数および運動性などの精
子の質を調べました。
 次に、これらの父親の子供に、そのような疾病を発症する頻度が高くなって
いるかどうかを解析しました。

 その結果、高齢者の男性の精子には特に異常は見られず、また出産直後での
子供にも、母親の場合に見られるような高齢出産の際の染色体異常のような現
象も、特に多くなってはいなかったそうです。

 ところが、2ヶ所の調査結果を比較したところ、ボルチモア住民男性が父親で
ある場合では、その子供が統合失調症や小人症の原因である軟骨形成不全症、
あるいは顔や体の骨格が変形するApert シンドロームになる頻度が高くなって
いる事が分かりました。
 即ち、郊外に住む中流層の白人が多かったカルフォルニアのグループに対し、
街中に住むボルチモアのグループの父親では子供に異常が出る頻度が高くなっ
ており、父親の年齢により遺伝的な欠損の頻度に影響する事が明らかになった
訳です。

 このことから、父親の場合は生活環境要因や社会的な地位、収入などによっ
て、老化のプロセスも異なっており、それが子供の遺伝的な背景に影響を与え
ている可能性があるということです。

 今回の研究は小規模なものですが、父親が高齢の場合にも何らかの遺伝的な
疾病が増加する可能性が高い事を示しており、今後大々的に研究する必要を感
じます。そして、次世代に禍根を残さないような出産のあり方も問われるよう
に思われます。
 出産は、人類全体に影響を及ぼす大問題だけに、非常に気になります。


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