癌と同じ機構で、精子は女性の免疫系から逃れている!

<癌と同じ機構で、精子は女性の免疫系から逃れている!>


このところ、がんの免疫療法に使われる新薬オプジーポが凄く話題になっています。
がん細胞は免疫機構から逃れる能力を持っており、そのため本来がんを攻撃する機能(免疫機能)が効かなくなってしまっています。
そこで、がんに対する免疫機能を高める薬剤として、抗PD-1抗体:オプジーボが開発されました。

ところで、生殖過程でも、自分以外の細胞である精子が自分(この場合は女性)の体内に侵入してくると、それを外敵として攻撃します。
でもそうだとすると、進入してきた精子との受精がうまく行かなくなりますね。
生物はうまくしたもので、その様な場合に備えて、精子が女性の体内に侵入する際には、その精子は危険物質ではないと判断(誤認)させ、女性の持つ免疫系から逃れるシステムを精子が有しています。

ロンドン帝国大学生命科学部Anne Dell教授等の報告(Journal of Biological Chemistry(タイトル:'Expression of Bisecting Type and Lewisx/Lewisy Terminated N-Glycans on Human Sperm')によると、糖鎖マーカーであるN-グルカンが精子表面にあり、これが免疫系から逃れる作用と強く関係しているのだそうです。

正常なヒトの細胞では、自分の細胞が自己の免疫系で認識されないようするために、蛋白から成るマーカーを細胞表面に有しています。
例えば、臓器移植の際には、同じタイプの蛋白マーカーを持つ人から提供された臓器を患者さんに移植することで、患者さんの免疫系で認識・排除されないようにしています。
しかし、精子細胞の場合はそれとは異なる糖鎖マーカが表面にあり、外敵ではないと認識されるような機構を備えていたのだそうです。
そして重要なことに、それは癌が体内で増殖する際に宿主の免疫系から逃れるのと非常に似ていることもわかったそうです。
同様の糖鎖マーカーは、がん細胞の表面、寄生虫HIVウイルスが感染した白血球にも存在するということです。
すなわち、がんやウイルスに感染した細胞は、これらのマーカーを表面に出すことで、自分は外敵ではないは誤認させて、人の免疫系から逃れて疾患を引き起こすのだそうです。

このことは、逆にそのマーカーを利用することができれば、他人からの臓器移植や癌の転移を抑制することも可能になります。
したがって、この発見は単に生殖過程の機構にとどまらず、がんの抑制や臓器移植を行う上でも大きな発見な訳です。

それにしても、精子君もたいしたもんですね。