世界各地のアザラシが、インフルエンザウイルスに感染した形跡

●世界各地のアザラシが、インフルエンザウイルスに感染した形跡


 一昨年はSARS、昨年は鳥インフルエンザが大問題となりましたが、2005年に
なってもウイルス感染症はおさまることを知らず、現在もノロウイルスによる
集団食中毒が日本各地で発生して大問題となっています。
 また、インフルエンザウイルスも例年に比べて報告数は少ないものの、宮城
県や岐阜県では警報レベルになっていますし、海外に目を向けますと、ベトナ
ム南部で男児2人がトリインフルエンザに感染、死亡したというニュースが最
近ありました。

 さて、このような人間に様々な症状をおこすウイルス感染症は動物由来のも
のが多くあり、例えばSARSハクビシン、インフルエンザは豚とニワトリとい
う説が一般的です。

 それに関して以前に、「アザラシからもウイルス:新たなウイルス感染の恐
怖?」(2004年1月26日号)と題したニュースをお知らせしました。
 先日この論文の主筆で、現在、海洋研究開発機構・極限環境生物圏研究セン
ターのK.Oishi先生から、詳しいコメントをいただきました。先生は最近新た
な発見もされていますので、今回は以前の内容の訂正を兼ねてお知らせしたい
と思います。

(1)訂正:2004年1月26日号は、K.Oishi先生の論文(Microbiol. Immunol.
46, 639-644, 2002)を基にしたものですが、HPの「ハワイの真珠湾に生息し
ているアザラシ」は間違いで、「カスピ海のパールアイランドに棲息するカス
ピカイアザラシ」が正しいものでした。
 また、"インフルエンザウイルスがいた"と断定的に書きましたが、血清中に
ヒト型のH3N2インフルエンザウイルスに強く反応する抗体があることがわかっ
たもので、その型のウイルスであることを確定するためには、ウイルス分離と
遺伝子解析が必要です。
 従って、"ヒト型H3N2様のインフルエンザウイルスの感染が強く示唆された"
というのが正しいと考えられますので、お詫びして訂正させていただきます。

(2)続報:今回更に、ロシアに棲息する他の種類のアザラシの血清中にもヒト
型のH3N2インフルエンザA型に対する抗体があり、ユーラシア大陸の各地のアザ
ラシがインフルエンザウイルスに感染したことを示唆しているというものです。
 この報告は、前報に続いて、K.Oishi先生らが、Microbiol Immunol.誌(2004;
48(11):905-909, 2004)に報告されたものです。
 研究では、前報と同様にアザラシの血清を酵素免疫法(ELISA)を用いて調べま
した。
 その結果、バイカルアザラシ(Phoca sibrica)の7検体中の2検体が、また、
ロシアのワモンアザラシ(Phoca hispida)の6検体中5検体が、A型インフル
エンザに対する抗体に陽性であることがわかりました。
 更に赤血球凝集抑制反応(Hemagglutination inhibition test)で調べたと
ころ、これらの陽性検体のうちでバイカルアザラシの1検体、またワモンアザ
ラシの4検体が、20年または30年前にヒトの間で流行したA/Aichi/2/68 (H3N2)
及び A/Bangkok/1/79(H3N2)株であることが明らかになりました。
 また、他の1検体のワモンアザラシは、以前米国のケープ岬でアザラシが大量
死した時に分離されたインフルエンザウイルス株であるA/seal/Massachusetts
/1/80 (H7N7)と反応したということです。

 以上の結果は、ユーラシア大陸の広い範囲に棲息するアザラシの間に、ヒト
型を含むインフルエンザウイルスが流行したことを示唆しています。
 今後、ウイルス分離を行なった後、アザラシの集団の中でインフルエンザウ
イルスが維持されるのか、どのような変異速度で維持されるのか、トリ型のウ
イルスとの間で遺伝子再編が起こる可能性はないのか、などの研究が重要であ
ると考えられます。

 勿論、これらのアザラシの体内に現在もインフルエンザウイルスが生存して
いるのか、またアザラシから実際に人に感染するかどうかはわかりません。
 しかし、もしこのような動物を通して新しいウイルスが出現するとしたら、
人類にとって大きな脅威になると思われます。
 我々人類がウイルスの攻撃から逃れるため、Oishi先生をはじめとした多く
の方々の地道な研究が、更に進展する事を望んで止みません。

△▲△▲△▲△▲△▲△▲△▲△▲△▲△▲△▲△▲△▲△▲△▲△▲△▲△

<心に効く、言葉のサプリメント
 
 「われは天才なりというのは未だ知らず。
  われ努力の人と称するはわれを知るものなり。」 (頼山陽

□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□

 今日の話題は如何でしたか?

 ・既刊号は、ホームページ「http://www.drhase.info」をご覧下さい。

 ・メールマガジンをお届けしています。ご希望の方は、上記ホームページよ
  り登録なさってください。