善玉コレステロールは、必ずしも心臓に良いわけではない

<善玉コレステロールは、必ずしも心臓に良いわけではない>

「HDLは動脈の血流を悪くする悪玉コレステロール(LDL)の作用を抑え、心臓疾患のリスクを下げる善玉コレステロール」と習ってきました。
ところが必ずしもそうではなく、心臓疾患リスクを高める可能性がある事が分かりました。
今までの常識を覆し、現在の医薬品開発に疑問を提起する大問題として、大きな反響が起こっています。
これは、定評のある米国科学誌のサイエンスに先日掲載されたものです。
論文タイトル: Rare variant in scavenger receptor BI raises HDL cholesterol and increases risk of coronary heart disease
著者: Paolo Zanoni 他
科学誌名: Science 11 Mar 2016: Vol. 351, Issue 6278, pp. 1166-1171

研究は、HDLの値が高い852人とHDL値の低い1,156人のゲノムを比較したものです。
それによりますと、SR-B1遺伝子に変異が生じた遺伝子を持つ人では、HDL値が高いにも関わらず、心疾患のリスクが上昇することが分かりました。

HDLは、体の各組織から戻ってきたコレステロールが肝臓に再吸収される際に重要な効果をもたらす因子とされています。
そして、この時にHDLの表面に結合した「SR-B1」というタンパク質がその作用に何らかの役割を果たすと考えられていました。

この研究者らは以前、SR-B1遺伝子が欠損したマウスでは、HDLの値が高い個体でも動脈硬化のリスクが上昇することを見出していました。
しかし、そもそもマウスではLDLのレベルが低いことから、人間でも同様の傾向が見られるのかどうかが長い間にわたって議論されていました。

ところが今回、人間の場合にも同様の事が観察されたことから、従来の「HDL値が高ければ心疾患の防止につながる」とされていた考えが、必ずしも正しくないことになります。
なお、このヒトの遺伝子変異は、ドイツや東欧に居住していた祖先をもつアシュケナージユダヤ人に特有の現象とみられるそうです。
しかし、これまでに行われてきたHDL値を上げる薬の臨床試験では、期待通りの結果が得られておらず、今回の研究はその説明となる可能性があります。

 またこの研究により、この分野の権威ある研究者らからも、「少なくとも”善玉(good cholesterol)” という表現は止めるべきだ」との声も上がっているようです。
 このように、今回の結果は今までの常識に大きな疑問を与えただけでなく、将来の心臓疾患のリスクを低下させる手段に新たな道を開く可能性があります。

これからの研究が急がれますね。