プラセボ効果の機構が明らかに:うまく使えば効果が倍増

プラセボ効果の機構が明らかに:うまく使えば効果が倍増>


 プラセボ効果とは、患者さん自身がその薬に効果があると思い込むことにより、偽の薬を飲んだ場合でも効果が現れるという、いわば「イワシの頭も信心から」とされている現象です。
 昔、夜眠れないと悩んでいた時に、兄より「この睡眠薬は良く効くから」といわれて、“クスリ”をのんだことがあります。
 実に良く効きましたが、それは単なるビタミン剤だった、という経験があります。

 さて今回は、このような「プラセボ(偽薬)効果」を引き起こす脳の領域が同定された、というお話です。

 これは、米国ミシガン大学のDavid J. Scott氏らが、医学誌「Neuron」(Neuron, 19 July 2007)に報告したものです。

 この研究者は、脳の側座核(nucleus accumbens, NAC)という領域に着目しました。
 ちなみにこの側座核という脳の部分は、「やる気」を担当する領域で、側座核が刺激されると、情報の司令塔である海馬や 意思のコントロールを行う前頭連合野に信号が送られ、アセチルコリン、 アドレナリン、ノルアドレナリンという神経伝達物質が分泌されることがわかっています。

 研究では最初に、被験者に対して、新しい鎮痛薬或いはプラセボ偽薬のいずれかを投与すると伝えておき、その後、実際には被験者全員にプラセボの生理食塩水を注射しました。

 また、被験者には予め、「薬」の鎮痛効果に対する期待度を評価してもらい、その後に軽い痛みを与えられて、その痛みに対する「薬」の効果を自身で評価してもらいました。

 PET(ポジトロンCT)を用いて、側座核からのドパミンの分泌量を測定したところ、薬剤の鎮痛効果に対する期待が大きい人ほど、ドパミン分泌も多いことが明らかになったそうです。

 さらに、「薬による痛みの緩和効果があった」と評価した人では、プラセボ投与時での側座核の活性が強く現れることがわかりました。

 また、機能的磁気共鳴画像を用いた脳スキャンによる測定でも、側座核の活動度が大きかった人ほど、プラセボ薬が有効なことが明らかになりました。

 以上の結果から、この研究者は、プラセボ効果が生じるには側座核系が活性化されることと強い関係がある、と述べています。

 さて、プラセボは、新薬の効果を調べる際にはいろいろと問題を起こしますが、それとは別に、プラセボ効果自体を医療に利用しようと云う考えが最近強まってきています。

 今後、プラセボのメカニズムを利用して、さまざまな疾患の治療に役立つことが期待されます。


□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□

 今日の話題は如何でしたか?

 ・既刊号は、ホームページ「http://www.drhase.info/」をご覧下さい。

 ・メールマガジンをお届けしています。ご希望の方は上記ホームページより登録してください。

 ・また情報交換の場として、「http://d.hatena.ne.jp/Drhase/」のコメントコーナーもご覧下さい。