寄生虫がお腹にいると、アレルギー反応が軽くなる。

寄生虫がお腹にいると、アレルギー反応が軽くなる。>


 寄生虫がお腹にいると、花粉症やアトピーなどのアレルギー疾患になりにくいという説があります。
 以前に比べて衛生状態が格段によくなった国では、回虫などの寄生虫に罹る人は少なくなったのに伴い、逆に花粉症やアトピーなどのアレルギー疾患で悩む人が飛躍的に増えてきました。
 また、未だに衛生状態の悪い国では、寄生虫感染者も多いのですが、そこでは花粉症なんか全く知らない、という状態です。

 これは、“衛生仮説(hygiene hypothesis)”と呼ばれるもので、最近の研究により、徐々に信憑性が高くなってきた仮説です。

 さて、自己免疫疾患の一つとされる多発性硬化症の人が増えてきたのは、同じような衛生仮説によるのではないかというお話です。

 この報告は、全米神経学会の専門誌Annals of Neurologyに、アルゼンチンのCarrea神経学研究所のJorge Correale博士らが報告したものです(Article: "Association Between Parasite Infection and Immune Responses in MS," Jorge Correale, Mauricio Farez, Annals of Neurology)。

 多発性硬化症(MS=Multiple Sclerosis)は中枢神経(脳・脊髄)の疾患で、15〜50歳の年齢階層に多く発生するものです。
 症状としては、視力障害、運動麻痺、感覚異常、運動失調などがみられ、日本での有病率は人口10万人あたり3〜5人で、女性に多くみられるもので、最近発症者が増えているといわれています。
 そして、その原因として免疫不全が関係しているのではないかという考えがあります。

 以前の研究で、動物に寄生虫を感染させたところ、免疫疾患の症状に変化があったという報告があり、免疫反応を司るT細胞の働きが減少することがその理由ではないか、とされています。

 そこで、寄生虫感染していたMSの患者さん12名と、12名の寄生虫感染していないMS患者さん、及び12名の健康な人を対象にして、症状の違いを調べました。

 4.6年間に渡って、神経学的試験やRIによる脳の検査と共に、免疫学的な評価を行ったところ、MS症状の悪化がみられたのは、感染していない人では延べ56回あったのに対し、寄生虫感染者では3回しか見られませんでした。

 また、最後の時点で、MSの悪化度を示す指標であるEDSS値(Expanded Disability Status Score)が悪くなっていたのは、非感染者では11名だったのに対し、寄生虫感染者では2名だったそうです。

 次に、過剰な免疫反応を阻害するサイトカインを産生する細胞数を測定したところ、寄生虫感染者ではその数が多くなっていることが分かりました。

 以上の結果から、寄生虫感染により、免疫反応を阻害するT細胞の産生がふえたため、MSに関係した炎症反応が低下していると考えられました。

 寄生虫が宿主に長期間住みつくためには、宿主の抗体反応を低下させる必要がありますが、寄生虫以外の抗原に対する抗体反応も同時に低下させる、という訳です。


 さて、寄生虫のどのようなタンパク質が、そのような免疫反応の低下をもたらすかが分かれば、花粉症などのアレルギー反応の薬となる可能性があります。

 アレルギー反応を弱くするために、寄生虫自体を身体に入れるのはあまり感心しませんので、それに関したタンパク質が早く見つかることが望まれます。